1936年――メキシコにとって、そしてルチャ・リブレにとって、忘れがたい年が幕を開けた。
情熱と栄光の90年――ルチャ・リブレとメキシコ文化の交差点1936年
1936年――メキシコにとって、そしてルチャ・リブレにとって、忘れがたい年が幕を開けた。この年、ラサロ・カルデナス将軍が「祖国のための技術(La técnica al servicio de la patria)」という理念のもと、国立工科大学(Instituto Politécnico Nacional)を創設。これは、後のメキシコにおける技術革新の礎となり、国の未来を切り拓く大きな一歩だった。


同じ頃、映画『アヤ・エン・エル・ランチョ・グランデ』が公開され、観客を恋とドラマの世界へと誘った。この作品は、メキシコ映画の黄金時代の幕開けを告げる象徴的な一本となり、スクリーンの中でも「メキシコらしさ」が輝きを放ち始めていた。

そして、芸術の世界では、ペドロ・リナレスが幻想と現実を融合させた不思議な存在――アレブリヘス(alebrijes)を創造。その鮮やかで奇想天外な造形は、今やメキシコの民芸文化を代表するアイコンとなっている。



そんな文化のうねりの中で、ルチャ・リブレ(メキシコのプロレス)は静かに、しかし確実に市民の心をつかんでいった。アレナ・メヒコのリングでは、フィルポ・セグラ、チャロ・アグアヨ、ディエンテス・エルナンデスといった初期のスターたちが登場し、観客を熱狂させていた。



そして1936年11月5日――歴史が動いた日。「覆面の驚異(La Maravilla Enmascarada)」が、シリア出身のレスラー、マララとの一戦で覆面を剥がされるという衝撃の結末を迎えたのだ。これは、ルチャ・リブレにおける「マスカラ・コントラ・マスカラ」という伝統的な形式の始まりを告げる、記念すべき瞬間だった。

それから90年。世界レスリング評議会(Consejo Mundial de Lucha Libre)は、情熱と栄光に満ちた歴史を紡ぎ続けてきた。ルチャ・リブレは単なる格闘技ではない。メキシコの文化、誇り、そして夢を体現する舞台なのだ。

