FOX放送決定でAAAはどう変わる?
2023年11月、メキシコのルチャリブレ界に大きなニュースが飛び込んできました。ルチャリブレAAA(Lucha Libre AAA Worldwide)が、2026年からFOX Sportsと提携し、テレビ放送を開始すると正式に発表しました。
この発表は、単なる放送契約にとどまらず、メキシコの国民的エンターテインメントであるルチャリブレが、グローバルなメディアの舞台に本格的に進出することを意味しています。
発表された主な内容
- 2026年から、FOXがルチャリブレAAAの放送を開始します。
- この提携により、FOXはメキシコ国内でのスポーツ放送のラインナップをさらに強化します。
放送内容
- AAAの週刊番組に加え、以下の特別イベントも放送されます:
- Rey de Reyes(王の中の王)
- Triplemanía(AAA年間最大の大会)
- Verano de Escándalo(夏のビッグイベント)
- Héroes Inmortales(不滅の英雄たち)
・人気選手の独占コンテンツも提供予定(例:レディ・シャニ、ラレド・キッド、サイコ・クラウン、パガノ、チェスマンなど)
FOXTVとは?
まず、今回の提携先であるFOX(フォックス)についてご紹介します。
FOXは、アメリカの大手テレビネットワークで、1986年に設立されました。『24 -TWENTY FOUR-』や『プリズン・ブレイク』などの人気ドラマを生み出し、エンタメとスポーツの両輪で世界中に影響力を持つメディア企業です。
特にスポーツ分野では、NFL(アメリカンフットボール)やMLB(メジャーリーグ)の中継で知られており、近年は格闘技やプロレスにも力を入れています。
今回のAAAとの提携により、メキシコ国内のFOX Sportsチャンネルや、FOX Sports App、TubiのFOX Sports MXでAAAの大会が放送される予定です。
日本では「FOXチャンネル」として一時期放送されていましたが、現在はDlifeに名称を変更したため、馴染みが薄い方も多いかもしれません。しかし、アメリカや中南米では非常に影響力のある放送局であり、AAAにとっては世界進出の大きな足がかりとなることは間違いありません。
WWEレジェンドたちのコメント:ルチャリブレへの敬意と期待
この発表に対して、WWEの伝説的レスラーたちがコメントを発表しました。彼らの言葉からは、ルチャリブレという文化への深いリスペクトと、今回の提携がもたらす可能性への期待が感じられます。
アンダーテイカー
ルチャリブレ・AAAの新時代の幕開けだ。. メキシコ、中米、南米のファンのために興奮している…2026年は楽しいものになるだろう。
ショーン・マイケルズ
AAAにとっても、メキシコ、中米、南米のファンにとっても大きな動きだ。
2026年は、きっと素晴らしい年になるだろう。ーShawn Michaelsー
トリプルH
WWE&ルチャリブレAAAのパートナーシップは、最高のルチャリブレを紹介し、この素晴らしい文化の歴史と遺産を称え続けています。
そして2026年からは、我々のスター、ファン、そして業界は、メキシコ、中米、南米全域でFOX
と提携する素晴らしい機会を得ました。
このチームを信じられないほど誇りに思います。このプロジェクトは情熱によって推進され、両社の協力によって成長しました。2026年とその先が楽しみです。-TripleH–
TV放送の幕が上がる時、“舞台に立てない”選手たちがいる
2026年から始まるTV放送、そしてWWEとの連携強化――これらの動きは、ルチャリブレにとって大きな飛躍のチャンスであると同時に、いくつかの懸念点も浮かび上がらせているのではないでしょうか?
たとえば、テレビという“舞台”に立てるのは、果たして誰なのか。視聴率や話題性を重視する放送の中で、本来なら主役であるはずの選手たちが、次第に画面の外へと追いやられてしまう可能性が出てきます。
TV放送では、視聴率を取れるスター選手が優先されるでしょう。そうなると、ドミニク・ミステリオやMr・イグアナのような国際的に人気のある選手が中心となり、デビュー間もない若手や中堅選手がテレビに出られなくなるリスクがあります。
特に注目すべきは、長年AAAを支えてきたベテランと呼ばれる選手たちの立場です。AAAで活躍中のシベルネティコやチェスマン、そして国際的なキャリアを持つアルベルト・デル・リオのような選手たちは、AAAの歴史や物語を語るうえで欠かせない存在です。ですが彼らはまだWWEがAAAを買収した後のYouTubeで配信された大きな大会で試合は組まれていません。
TV放送が視聴率や話題性を重視するようになると、どうしても若手のスター候補やWWEからの注目選手にスポットライトが集まりがちです。その結果、長年AAAのリングで活躍してきたベテランたちが“画面の外”に追いやられる可能性がでてきます(すでに出てきている?!)
ルチャリブレの文化的アイデンティティの希薄化
ルチャリブレは、単なる格闘技ではなく、メキシコの宗教観や社会背景、そして民衆の物語と深く結びついた文化的表現です。マスクには神聖な意味が込められ、リング上の戦いは善と悪、伝統と革新、家族と名誉といったテーマを象徴的に描き出します。
しかし、今回のようにアメリカの大手メディアやWWEとの連携が進むことで、アメリカ的な演出やストーリーテリングに寄せすぎる危険性が出てきます。実際、WWEのトリプルHはAAA買収時のコメントで、「マスカラ vs マスカラ」や「マスカラ vs カベジェラ」といった、ルチャリブレの伝統的な試合形式は、選手のキャリア寿命を縮める可能性があるため、今後は減っていくだろう」と発言しています。
これらの試合は、選手の誇りや物語のクライマックスとして長年ファンに愛されてきた形式であり、ルチャリブレの魂とも言える存在です。それが「効率」や「ブランド保護」の名のもとに削られていくとすれば、ルチャリブレが持つ独自の文化的アイデンティティが徐々に薄れていくことになりかねません。
地方ファンの疎外感
今回の提携によって、テレビ放送や大規模イベントに登場する選手の顔ぶれが変わっていく中で、地方のファンが疎外感を抱く可能性も見逃せません。
「最近のAAA中継はWWEの選手ばかりで、昔から応援してきたAAAの選手がほとんど出てこない」「地元のヒーローが見られなくなった」――そんな声が、SNSやファンコミュニティで徐々に増えてくるでしょう。
さらに、地方で開催される大会に、かつてのように看板選手やベテランが来ないと言う大会が行われる可能性もあります。代わりに、TV向けの大型イベントに人気選手が集中し、地方大会は“育成の場”として扱われる傾向が強まってくるかもしれません。
加えて、WWE所属のスター選手や国際的に有名なレスラーが多く出場するようになったことで、チケット価格が以前よりも高騰してくることも予想されます。これまで家族連れで気軽に観戦できていた地方大会が、「高嶺の花」になってしまうことは、ファン層の分断を生む要因になりかねません。
ルチャリブレは、都市部だけでなく、地方の小さな町や村でも愛されてきた文化です。そうした地域のファンが「自分たちのAAA」を感じられなくなれば、団体の根本的な支えが揺らぐことにもつながるでしょう。
伝統とグローバルの“共演”をどう実現するか?
では、こうした懸念にどう向き合えばよいのでしょうか。幾つか解決策を考えてみました。
1.若手選手の“育成枠”を設ける
テレビ放送が本格化し、国際的なスター選手が注目を集める中でも、若手やベテランの地元選手たちが継続的に活躍できる場を確保することは、団体の未来を支えるうえで欠かせません。
この点で参考になるのが、WWEが展開している「NXT」の存在です。NXTは、主に若手選手や他団体から新たにWWEに加わったレスラー、さらには提携団体からの参加選手を中心に構成された育成ブランドであり、WWE本体とは異なる独自のカラーとストーリーラインを持ちながら、次世代のスターを育てる重要な役割を果たしています。
AAAにおいても、同様の仕組みが必要ではないでしょうか。たとえば、NXTのような新たな育成団体を立ち上げ、テレビ放送とは別軸で若手や地域の有力選手たちが主役になれる舞台を用意する。その中で「ルーキー・チャレンジ」や「地域代表トーナメント」などの企画を展開し、地元の才能を発掘・育成する流れを明確に構築することが、長期的な視点で見たときにAAAのブランド価値を高めることにつながると思います。
2.ルチャリブレの文化的要素を前面に出す
ルチャリブレの魅力は、場外への飛び技やスピーディーな試合展開、選手独自のキャラクターなどですが、その根底には、マスクに込められた精神性や、親子三代にわたるレスラーの血統といった、深い文化的背景があります。
たとえば、マスクは単なるコスチュームではなく、選手のアイデンティティそのものであり、時に“顔”以上の意味を持ちます。マスクを賭けた「マスカラ戦」は、名誉と誇りをかけた究極の戦いであり、観客にとっても感情移入の核となる瞬間です。また、家族の物語――父から子へと受け継がれるリングネームや技――も、ルチャリブレならではのドラマを生み出しています。
こうした文化的要素を、単なる背景としてではなく、演出やストーリーテリングの中心に据えることで、国際的な視聴者にもルチャリブレの奥深さを伝えることができます。むしろ、“文化、伝統を売る”という視点で差別化を図ることが、グローバルなプロレス市場においてAAAの独自性を際立たせる鍵となるのではないでしょうか。
3.ファンとの対話を重視する
どれだけ放送規模が拡大し、世界的なスターが登場しても、ルチャリブレを支えてきたのは、メキシコ国内のファンたちの熱い声援と愛情です。その声を無視してしまえば、団体の根幹が揺らぎかねません。
だからこそ、SNSや現地イベント、ファンミーティングなどを通じて、ファンの声を丁寧に拾い上げる仕組みを整えることが不可欠です。たとえば、地方大会でのファン投票によるカード決定や、選手との交流イベント、舞台裏のドキュメンタリー配信など、ファンが「自分たちもAAAの一部だ」と感じられるような双方向の関係性を築くことが今後求められると予想されます。
こうした取り組みは、単なる“おまけ”ではなく、長期的なブランドの信頼と支持を育てる土台となります。グローバル展開が進む今だからこそ、原点であるファンとの絆を再確認し、強化していくことが、AAAの未来を支える力になるのではないでしょうか。
おわりに:ルチャリブレの未来を守るために
FOXとの提携は、AAAにとって大きなチャンスであると同時に、文化とビジネスのバランスを問われる試練でもあります。世界に羽ばたくルチャリブレの姿を見たい――そう願う一方で、選手やファンの声が置き去りにされてしまっては、本来の魅力が失われてしまうのではないでしょうか。
ここで、ルチャリブレファンの一人として、僕「るちゃ男」の考えを少し聞いてください。
僕がルチャリブレを見始めたのは、もう30年も前のことです。当時から、ライバル団体であるCMLLは大きくスタイルを変えることなく、今もなお「テクニコ vs ルード」という伝統的な構図を守り続けています。選手たちはリング上でマイクを使って自己主張することもほとんどなく、試合そのものが語り、感情を伝える――それがルチャリブレの美学でした。
だからこそ、WWEがAAAと関わる中で、このルチャリブレのスタイルを無理に変えてほしくないという思いがあります。もちろん、WWEにはアメリカのプロレスとしての魅力があり、世界中にファンを持つだけの理由があります。でも、だからこそアメリカのプロレスの良さと、ルチャリブレの良さ――その両方を尊重し、融合させることで、新しい形のルチャリブレを築いてほしいと思っています。
この変化の波の中で、AAAがどんな選択をするのか。僕たちファンもまた、その行方を見守り、必要であれば声を上げていくことが必要となってくるのかもしれません。ルチャリブレの未来が、伝統と革新のバランスの中で、より豊かに輝くことを強く願っています。
文章:るちゃ男yAI記者Copilot


